気分が高まったり、逆に落ち込んだりと波がある状態を解決するために使われるのが気分安定薬です。日本では主に4種類の薬が出ており、それぞれに効果の特徴、注意するべき副作用が異なります。この記事では、気分安定薬の仕組みや効果、日本で承認されている薬剤、副作用、服用の注意、気分安定薬に近い効果のある薬などについてお伝えします。
気分安定薬の仕組み・効果
気分安定薬は気分の波を落ち着ける効果がある薬です。具体的には、気分が高まった状態である躁状態を抑える抗躁効果、落ち込んだ状態であるうつ状態を抑える抗うつ効果、それぞれの気分の波をゆるやかにしていく再発予防効果の3つの作用が期待できる薬のこと。英語では「mood stabilizer」と言い、それをそのまま和訳して日本語では気分安定薬となっています。
主に双極性障害の治療に使われます。他にもイライラや衝動性が高い状態を落ち着かせるためや、片頭痛をはじめとした頭痛にも使うことがあります。現時点で気分安定薬は微量元素(リチウム)を成分としたものと抗てんかん薬の2種類が存在しています。
微量元素(リチウム)
微量元素のリチウムを主成分とした薬。電子機器でリチウム電池というのを聞いたことがある方もいらっしゃると思いますが、あのリチウムです。リチウムそのままではなく、炭酸リチウムと言う形にして使われます。炭酸リチウムがどのように作用しているかのメカニズムは完全に解明されていませんが、これまでの多くの経験から気分を安定させる効果があると認められています。
抗てんかん薬
脳の異常な興奮によって、けいれんなどの症状が出るてんかんに使われる薬です。抗てんかん薬として使われていくうちに、気分安定薬としての有効性が発見されました。バルプロ酸ナトリウム、カルバマゼピン、ラモトリギンが気分を安定させる効果があると認められています。
気分安定薬の紹介
主に日本で気分安定薬となっているのは炭酸リチウム、バルプロ酸ナトリウム、カルバマゼピン、ラモトリギンの4剤。これらを新しく承認された順番でご紹介します。
ラモトリギン(ラミクタール)
抗てんかん薬で2008年に承認され、ラミクタールの名前で販売されています。抗うつ効果と再発予防効果に期待ができる薬です。抗うつ効果に期待ができるのは気分安定薬としては珍しいため、うつ状態が中心の患者さんに処方されるケースがよくあります。また、妊娠への影響が少ないため、妊婦さんにもよく使われます。
投薬は初めの2週間に25mg、次の2週間で50mgといった具合にゆっくりと増量していくため、効果が出るのに時間がかかるのがデメリット。副作用として、皮膚粘膜眼症候群(スチーブンス・ジョンソン症候群)や中毒性表皮壊死症(ライエル症候群)などの重症薬疹に注意が必要です。バルプロ酸ナトリウムと併用する場合は、副作用の頻度が上がるとされており、より気をつけて経過を観察します。
炭酸リチウム(リーマス)
リチウムを主成分とした薬で1980年に承認され、リーマスの名前で販売されています。抗躁効果、抗うつ効果、再発予防効果の3つに期待ができるバランスの良い薬です。また、自殺予防効果が示されている唯一の薬でもあります。服用を始めてから1~2週間ほどで効果が得られます。
炭酸リチウムは治療域と中毒域の間隔が狭いため、リチウム中毒を引き起こしやすいのが大きな欠点です。そのため、治療中は定期的に血液検査を実施し、血液中の薬の濃度(血中濃度)を観察する必要があります。中毒症状は頭痛、吐き気、下痢、けいれん発作、不整脈など。また、長期にわたる服用は甲状腺機能低下症や腎機能障害の原因になることもあり、甲状腺と腎臓の機能も血液検査で観察します。
炭酸リチウムの副作用には、胎児への催奇形性、薬の成分が母乳へ移行してしまうというものがあります。妊娠の可能性がある場合や妊娠中、母乳育児中の女性には使用できません。
バルプロ酸ナトリウム(デパケン、デパケンR、セレニカ、セレニカR)
抗てんかん薬で1975年に承認され、デパケン、デパケンR、セレニカ、セレニカRの名前で販売されています。抗躁効果があり、再発予防効果にもある程度の効果が期待できます。気分安定薬の中では比較的安全性が高いですが、肝機能障害、高アンモニア血症に気をつける必要があります。治療効果が得られる血液中の薬の濃度(血中濃度)が決まっており、定期的な血液検査が必要です。また、催奇形性など胎児への影響があるため、妊娠の可能性がある場合や妊娠中の方は医師へその旨を必ず伝えてください。
デパケンとデパケンRについて、デパケンは通常の錠剤やシロップ、デパケンRは徐放性製剤という違いがあります。徐放性製剤は体内で徐々に有効成分が溶けだすようになっている薬で、デパケンの体内ですぐに代謝され、作用時間が短いというデメリットを補えます。セレニカとセレニカRの違いも徐放性製剤かどうかです。
カルバマゼピン(テグレトール)
抗てんかん薬で1966年に承認され、テグレトールの名前で販売されています。統合失調症の精神運動発作や激しい興奮状態の鎮静化にも使われていたこともあり、抗躁効果が強い特徴があります。他の気分安定薬と比べ副作用が目立ち、重症薬疹や無顆粒球症などの重篤な副作用にも注意が必要です。カルバマゼピンは赤血球数と白血球数を大きく減少させる可能性があるため、血液検査をして経過観察をします。また、治療域と中毒域が近いので、その点でも定期的な血液検査が必要となります。
気をつけることが多いため、第一選択薬ではありませんが、リーマスやデパケンでも、躁状態が改善されない場合に試してみる価値がある薬です。
気分安定薬の剤形
気分安定薬の剤形は基本的には錠剤が多いです。一部の薬剤では、細粒やシロップなどが存在しています。また、バルプロ酸ナトリウムの項でも触れたように、デパケンRやセレニカRでは徐放性製剤という剤形をしています。徐放性製剤は薬から成分が放出されるのを遅くすることで、血液中の薬の濃度を通常の錠剤よりも長く一定に保つことが可能です。成分の放出を遅くするために、油脂成分などで膜を作っているのですが、その膜が残って便に排出されることがあります。これを「ゴーストピル」と呼びます。薬が排出されたように見えますが、成分自体は体内に吸収されているので、ご安心ください。
徐放性製剤は噛み砕くなどして服用すると、成分が想定以上の早さで体内に吸収されてしまい、通常の錠剤よりも副作用が出やすくなるなどの危険があります。どの薬でも言えることではありますが、薬はそのままの形で服用するようにしましょう。
気分安定薬で共通する副作用
気分安定薬は薬ごとに副作用が異なりますが、共通して出やすい副作用もあります。それは次のようなものです。
- 眠気、ふらつき
- 吐き気
気分安定薬は脳の活動を抑える作用があるため、眠気やふらつきといった副作用が出ることがあります。飲み始めに生じることが多く、次第に慣れていくことが多いです。対処としては、慣れる可能性が高いので様子を見るのを基本とし、睡眠習慣の見直しや就寝前の服用にするなどの飲み方を工夫するといったことがあります。
吐き気に関しては原因がはっきりとしていませんが、こちらも飲み始めの時期に見られることが多いです。慣れていくこともあるので、やはり様子を見るのが基本となります。他には一時的に吐き気止めを使用したり、増量のペースを落としたりするなどがあります。
気分安定薬の服用について、注意点
気分安定薬は重篤な副作用がある薬が多いため、主治医の指示に従って服用するようにしましょう。再発リスクが高まる、副作用などの危険があるため、自己判断で飲む量を増減させたり、服用を中止したりしないようにしてください。もし、副作用や効き目について気になる点があれば、主治医に相談すると処方を調整してくれると思います。
気分安定薬は併用に注意が必要な薬が多いので、必ず現在服用している薬を主治医と薬剤師に伝えるようにしてください。また、胎児への影響が出やすい薬もあります。妊娠をしている、または妊娠の可能性があるという方は、その旨を主治医と薬剤師に伝えてください。効き目の強弱に影響が出ることがあるため、アルコールと一緒の服用は厳禁です。気分安定薬は薬ごとに注意点が異なるので、主治医や薬剤師の説明をしっかりと聞くようにしましょう。
気分安定薬に近い効果のある薬
非定型抗精神病薬の中には気分安定薬に近い働きをする薬があります。アリピプラゾール(エピリファイ)やオランザピン(ジプレキサ)、クエチアピン(セロクエル)など。即効性に優れ、気分安定薬と併用することが多いです。重篤な副作用のリスクも気分安定薬より低い傾向があります。
うつ状態に対して抗うつ薬を使う場合があります。ただし、急に躁状態になる躁転が引き起こされることがあるので注意が必要です。また、1年のうちに4回以上躁状態とうつ状態を繰り返す急速交代化(ラピッドサイクリング)を誘発することもあり、抗うつ薬を使うかは慎重に判断をします。
気分安定薬についてお伝えしました。薬剤について、特徴的な部分をピックアップしており、詳細な説明は割愛している点をご了承ください。薬剤ごとに効果や副作用が異なるので、主治医や薬剤師の説明をしっかりと聞き、用法用量を守るようにしましょう。処方されている薬で副作用や効果など、気になる点がある時は主治医に相談してみてください。気分安定薬は併用注意の薬が多かったり、重篤な副作用があったりしますが、医師の診察のもと適切に服用していけば大事になることはそうありません。必要以上に怖がらず、治療に専念してもらえたらと思います。
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