統合失調症は幻覚や妄想、気分の落ち込み、記憶力の低下などが生じる病気です。日本ではおよそ100人に1人の割合で見られ、誰でも罹患する可能性があります。早期に治療をすることで寛解にかかる時間も短くなるため、異変に早く気付くことが重要です。また、再発しやすい病気ですので、再発サインをキャッチするのも大事になってきます。この記事では、統合失調症の症状や経過、治療方法、再発のサインについてお伝えします。
統合失調症とは

統合失調症は考えや気持ちがまとまりづらくなってしまう病気です。幻覚や妄想、感情の鈍化や意欲の低下などの症状が見られます。症状について詳しくは次の章に記します。10代後半から30代前半の若い世代で発症することが多いです。男女差はほとんどなく、日本ではおよそ100人に1人の割合で見られます。
統合失調症の原因は未だ解明されていません。遺伝的な要因、脳内の伝達物質のバランスが崩れる、ストレスや生活リズムの乱れといった環境要因などが原因ではないかと考えられています。現在はそれら複数の要因が組み合わさって発症に繋がる説が有力です。
統合失調症の症状

統合失調症の症状は大きく分けて「陽性症状」「陰性症状」「認知機能障害」の3つがあります。
陽性症状
陽性症状は健康な時にはなかった状態が現れる症状で、具体的には次のようなものがあります。
- 幻覚
- 妄想
- 思考障害
幻覚は実際にはないものを知覚する症状で、実際には音がしていないのに音や人の声が聞こえる幻聴、ないものが見える幻視などがあります。特に幻聴は統合失調症の代表的な症状です。
妄想は客観的に見てあり得ないことを事実だと信じ込んでしまうこと。妄想で信じ込んだことに対して、冷静な判断が難しく、周囲の人が間違ってると説得しても受け入れられません。妄想は周囲の人から嫌がらせを受けているなどの「被害妄想」、周囲のできごとを自分に関係づけて考える「関係妄想」、常に誰かに見張られていると思いこむ「注察妄想」など、様々なものがあります。
思考障害は、思考が混乱して考えをまとめるのが困難になります。脈絡のないことを言ってしまったり、何を話しているのかわからなくなったりします。
陰性症状
陰性症状はエネルギーの低下によって起こる症状で、具体的に次のようなものがあります。
- 意欲の低下
- 感情の鈍化
- 自閉
意欲の低下は何かをするといった、やる気が低下した状態。家事や仕事、身の回りのことなど、頭ではやらないととわかっていても行動することができません。また、行動できたとしても、その行動を続けられないというケースもあります。
感情の鈍化は感情の起伏が小さくなり、表情にも現れなくなります。また、他者の感情表現に共感することも少なくなります。
自閉は友人や家族など人と関わることを避け、自分の世界に閉じこもった状態。
認知機能障害
認知機能障害には次のようなものがあります。
- 記憶力の低下
- 注意力の低下
- 判断力の低下
記憶力の低下は、物事を覚えるのに時間がかかったり、覚えたことに基づいて行動することができなくなったりします。
注意力の低下は、物事に集中したり、必要な情報を選択して考えをまとめたりするのが困難になります。
判断力の低下は、計画を立てたり、物事の優先順位を付けたりするのができなくなります。
統合失調症の経過
統合失調症の経過は「前駆期」「急性期」「回復期」「安定期」の4つのフェーズに分かれています。
前駆期
普段と比べて何かがおかしいと感じる時期です。次のようなことを感じるようになります。
- 不眠や生活リズムの乱れ
- 気分の落ち込み、不安やイライラ
- 集中できない、学校や仕事でミスが増える
- 周囲に対する敏感さ(人の視線が気になるなど)
この時期は症状が軽いため「疲れているだけ」などと誤解してしまうことが多々あります。ですが、早めに治療を受けることで回復も早まるので、この時期に医療機関を受診することが望ましいです。
急性期
幻覚や妄想などの陽性症状が強く出てくる時期です。急性期になると、日常生活が立ち行かなくなるほどの重症になることもあります。症状の重さによっては、入院が必要な場合も。
回復期
治療によって陽性症状が落ち着いてきますが、体のだるさや意欲の低下などの陰性症状が出やすい時期です。焦って無理をすると再び症状が悪化することがあるため、身体の状態をしっかりと見極めることが大切です。
安定期
陰性症状も落ち着いてきて、周囲への関心、社会復帰などを考える余裕が生まれる時期です。服薬を継続しながら、社会参加に向けて少しずつ動けるようになります。ここでも無理は禁物で、主治医と相談しながら進めていくのが重要です。
統合失調症の治療

統合失調症の治療は「薬物療法」「リハビリテ-ション療法」の2つを平行して行います。急性期は薬物療法が中心となりますが、症状が落ち着いてきたらリハビリテーション療法も行っていきます。
薬物療法
統合失調症は抗精神病薬が治療の中心となります。抗精神病薬は神経伝達物質であるドーパミンの流れを抑えることで幻覚や妄想などの陽性症状を抑えます。
抗精神病薬には定型抗精神病薬と非定型抗精神病薬の2種類に大きく分けられます。非定型抗精神病薬の方が新しく、副作用が少ないことから、第一選択薬とすることが多いです。また、ドーパミン以外の神経伝達物質にも働くことで陰性症状の改善にも効果が期待できます。
統合失調症は再発しやすい病気です。症状が軽くなったからといって、服薬を自分の判断で中止しないようにしてください。服薬の中止、減薬は主治医に相談して決めていきましょう。また、手が震える、落ち着かない、ふらつきなど副作用が気になる場合も主治医に相談してください。抗精神病薬はいくつも種類がありますので、あなたに合った薬を探してくれます。
統合失調症は症状に合わせて、抗精神病薬以外のお薬も処方されます。一例として、不安を和らげる抗不安薬、うつ症状を改善する抗うつ薬、不眠を解消する睡眠薬などがあります。
リハビリテーション療法
リハビリテーション療法では、病気の自己管理の方法や社会生活を安定して送る方法などを習得していきます。病気や治療について学ぶ心理教育、実際に手を動かしながら趣味や就労に近い作業を行う作業療法、ロールプレイングを通して良い対人関係を築く方法を学ぶ社会生活技能訓練(SST)などがあります。
リハビリテーションは医師や看護師だけでなく、精神保健福祉士、作業療法士、臨床心理士などの専門職と連携して行われます。統合失調症での悩みは患者さんごとに異なり、それぞれに合ったリハビリテーション、スケジュールがあります。あなたに合ったものを考えますので、気になることがあれば主治医にご相談ください。
再発のサイン

統合失調症は再発しやすい病気です。再発を繰り返すと次のような影響があります。
- 回復が遅くなる
- 回復の程度が下がる
- 入院回数が増える
- 薬が効きにくくなる
- 自傷、他害のリスクが増える
- 自尊心が低下する
- 社会的な困難が生じる
- 家族や周囲の人にかかる負担が増える
再発のサインをキャッチして早めに気づき、対応することが重要です。再発のサインは次のようなものがあります。
- 眠れない日が続く
- イライラしている時間が多くなる
- 食欲が落ちている
- 焦りや不安の訴えが増える
- 発病時の体験を昨日のことのように言う
- そわそわして落ち着かない
- 抑うつ的になり、考え込んだりする
- 疑い深くなり、被害的になる
- 行動的になり今までしないことにトライする
- 作業所やデイケアを辞めて仕事探しに出る
再発のサインは患者さんによって出やすいものが異なります。自身の再発サインを知り、気づいたら早めに医療機関にご相談ください。また、本人だけでなく、家族や周囲の方が気づくパターンも多くあります。いつもと違う様子に気づいたら教えてもらうようにするのも効果的です。早めに受診をすれば、短期間の服薬や生活上のアドバイスで症状を抑えられることもあります。

統合失調症についてお伝えしました。統合失調症は早期に治療を開始した方が回復も早い病気です。不眠や気分の落ち込み、集中力の低下など、普段と少し違うと感じたら早めに医療機関を受診してください。また、統合失調症は再発しやすい病気でもあります。回復後も異変を感じたら医療機関にご相談ください。再発のサインは家族や周囲の方が気づくことも多いです。一人で抱え込まず周囲の方を頼るようにしましょう。
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統合失調症(こころもメンテしよう ~若者を支えるメンタルヘルスサイト~ 厚生労働省)
統合失調症(東京都福祉局)
統合失調症(MSDマニュアル家庭版)
