しながわ在宅クリニック

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うつ病の薬物療法以外の治療法、TMS治療について

投稿日:2023年12月26日

うつ病の治療というと抗うつ薬による薬物療法が一般的ですが、薬物以外の治療法としてTMS治療が近年注目されています。TMS治療は磁気の力を使って脳に電気刺激を与え、脳の働きを正常なものにしていく治療法です。この記事では、TMS治療とはどういうものなのか、保険適用について、メリットとデメリット、費用や安全性についてお伝えします。

TMS治療とは

TMS(rTMS)治療は「repetitive Transcranial Magnetic Stimulation」の略で、日本語に訳すと「反復経頭蓋磁気刺激療法」。磁気を利用して脳に電気刺激を与えることで、脳の働きを正常にしていきます。うつ病は脳の神経伝達機能の異常が原因と言われており、TMSによって異常な動きを正常化することでうつ病を治療します。

日本では2019年に保険適用となった新しい治療法ですが、臨床研究は1990年代に始まり、2008年にはアメリカで治療適応となっている、ある程度の歴史がある治療法です。脳に電気刺激というと怖いイメージを持つかもしれませんが、このように歴史のある治療法で安全性も高いので、ご安心ください。

TMS治療の適応症

現在、日本ではうつ病に対してのみ保険適用となっていますが、アメリカでは強迫性障害、ニコチン依存症、コカイン依存症の治療にも認可されています。脳の働きに原因がある精神疾患を中心に、疼痛(痛み)や麻痺など様々な分野に適応できないかと日夜研究が続けられています。うつ病に対して保険適用となっているTMS治療ですが、保険適用で治療をうけるには条件があります。

保険適用でTMS治療を受けるには

TMS治療を保険適用で受けるには次の条件を満たす必要があります。

  • 成人
  • 診断病名がうつ病
  • 抗うつ薬の治療を受けたことがあり、治療効果が不十分(治療抵抗性うつ病)
  • 中等度のうつ病
  • 2ヵ月の入院が可能

入院が可能というのは患者さんだけの条件ではなく、医療機関が入院設備を持っている必要があります。そのため、実施できる医療機関はある程度の規模の病院になります。保険適用でTMS治療をしている医療機関は、ページ末端の関連リンクをご覧ください。

保険適用のTMS治療は決められた機器を使い、6週間を限度とし、計30回のプロトコール(刺激方法)と定められています。

TMS治療のメリット、デメリット

TMS治療には次のようなメリットがあります。

  • 薬で効果がなかった患者さんにも治療効果が得られる可能性がある
  • 身体に対して傷ができるなどがない(非侵襲性)
  • 副作用が少なく、安全性が高い
  • 短期間で治療効果に期待ができる
  • 薬物療法に比べて再発率が低い

薬とは異なるアプローチになるので、薬で思うような治療効果が感じられなかった患者さんにも効果が期待できるのは、うつ病の患者さんにとって大きな希望になると思います。また、後述しますが副作用も薬治療とは異なる傾向があるため、薬の副作用が辛いという患者さんには大きなメリットとなります。

逆にTMS治療は次のようなデメリットがあります。

  • 治療回数が多いため、頻繁な通院もしくは入院が必要
  • 効果には個人差がある
  • 保険診療で約7~50万円、自由診療の場合はさらに高額になる場合も。

メリットに短期間で治療効果に期待ができるとありましたが、その代わりに短期間で頻繁に治療を受ける必要があります。学校に通っている方や仕事をしている方、うつの症状で頻繁に通うのが難しい方にとってはここがネックになるかもしれません。

効果に関してはどの治療法でも言えることですが、TMS治療でも個人差があります。TMS治療を受けても効果が感じられないというケースもありますので、そこは覚えておいてください。費用については後述します。

TMS治療が向いている方

TMS治療は薬で治療効果が感じられなく、一定期間頻繁に通院もしくは入院が可能な方に向いています。また、薬物治療よりも早く治療効果を感じられる傾向があるため、短期間で集中して治療したい方にも良いでしょう。薬とは副作用が異なりますので、薬の副作用が辛いなど、薬物治療が困難な方も検討する価値があります。

TMS治療の費用

保険診療の場合は、高額療養費制度の対象となります。高額療養費制度は1ヵ月の支払額が決められた上限額を超えた場合に、その超えた金額が支給される制度です。決められた上限額は所得区分によって異なります。TMS治療の場合、治療期間が6週間と定められているため、支払う費用は高額療養費制度を使うと7~50万円程度です。これに加え、入院のベッド代などが別途必要になります。

自由診療の場合は医療機関によって費用設定は様々です。保険診療と同等の医院もあれば、高いケースもあります。また、TMS治療を受ける回数も保険診療と異なり、定まっていないため、1回あたりが安くても累計で高額になることもあるのでご注意ください。自由診療で受ける場合は最終的に費用がいくらになるか確認することも大事です。

TMSの安全性・副作用

TMS治療は30年以上研究されている歴史があり、安全性が高いと言われています。副作用としては、頭痛や頭部の不快感、顔の痙攣が見られます。これらは治療中のみで、TMS治療の刺激を止めれば副作用もなくなることがほとんどです。

注意が必要な副作用としてけいれんがあり、けいれんリスクが高いと判断された方にはTMS治療を行えません。また、金属や精密機器は磁気の影響を受けるため、頭頚部にそのようなもの(人工内耳やペースメーカーなど)がある方もTMS治療を受けられません。

TMS治療についてお伝えしました。薬とは異なったアプローチとなるので、薬治療で効果が見られなかったり、弱かったりした患者さんには一考の価値がある治療法です。保険適用で治療を受けるには条件がありますので、その点にご注意ください。自由診療で行っている医療機関もあり、治療回数の調整や最新のプロトコールで受けられるなど、保険適用とは異なるメリットもあります。TMS治療を検討する際は、ご自身の希望とよく照らし合わせて選択すると良いでしょう。

関連ブログ記事

抗うつ薬について
うつ病の薬物療法以外の治療法、電気けいれん療法(ECT)について

関連リンク

rTMS専門外来(NCNP病院 国立精神・神経医療研究センター)
rTMS療法(神奈川県立精神医療センター)
TMS保険実施の医療機関の情報提供(臨床TMS研究会)
反復経頭蓋磁気刺激装置適正使用指針(日本精神神経学会)

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