日本の夏は湿度、気温ともに高く、食中毒の原因となる細菌が増殖しやすい季節です。2020年の6月から9月の食中毒患者数は8,000名強と、年間の総患者数の半分以上を占めていました。この記事では、夏に増える食中毒の特徴、原因となる細菌、予防方法と対処方法についてお伝えします。
夏に増える食中毒
食中毒は原因によって、細菌性、ウイルス性、自然毒、化学物質、寄生虫などに分けられます。日本は梅雨から夏にかけて、高温多湿な環境となり、そのような状態を細菌は好みます。そのため、夏はカンピロバクターやサルモネラ菌など、細菌性の食中毒が多いです。
食中毒になると、細菌によって違いがありますが、概ね発熱、腹痛、下痢や嘔吐などが症状として見られます。食中毒で病院を受診すると、はじめに原因の特定をし、原因にあった治療が施されます。また、重症度によっては入院治療となることもあります。
夏の食中毒の原因となる細菌と特徴
食中毒を引き起こす細菌は、カンピロバクター、サルモネラ菌、腸管出血性大腸菌、黄色ブドウ球菌などがあります。それぞれの感染源や潜伏期間、症状をご紹介します。
カンピロバクター
感染源:食肉全般、特に鶏肉
潜伏期間:2日~7日
症状:発熱、腹痛、下痢、倦怠感、筋肉痛
カンピロバクターは鶏、牛、豚の腸管内などに存在する細菌。日本で発生している細菌性食中毒の原因の大半はこのカンピロバクターです。熱や乾燥に弱いので、しっかりと加熱調理されていれば大丈夫ですが、生焼けの食肉や鶏刺しなどの生肉料理は注意が必要です。潜伏期間は1~7日と長いため、原因の特定が難しくなることもあります。
サルモネラ菌
感染源:食肉全般、卵、特に鶏肉と鶏卵
潜伏期間:6時間~72時間
症状:発熱、腹痛、嘔吐、下痢
サルモネラ菌は、牛や豚など動物の腸の中、河川や下水などに存在する細菌。症状は、激しい腹痛や下痢、発熱は40度近くになることもあります。熱に弱いため、十分に加熱するのが予防に繋がります。鶏卵を生で食べる場合は新鮮なものにしましょう。
腸管出血性大腸菌(O-157など)
感染源:食肉全般、特に牛肉、加工食品、水耕野菜、井戸水
潜伏期間:1日~14日(平均3日~5日)
症状:発熱、腹痛、下痢(水溶性、血便)、嘔吐
大腸菌は人の腸内にも存在する細菌で様々な種類があり、多くは無害ですが、いくつかの大腸菌は病原性を持っています。有名なのはO-157ですね。感染力が強く、100個程度の菌でも感染します。また、感染力の強さから、入浴やタオルの共用、トイレの取っ手などで2次感染を起こしやすいので、家族で感染者が出た場合は注意が必要です。症状は水のような下痢や出血性の下痢が特徴。加熱や消毒によって予防ができます。
黄色ブドウ球菌
感染源:調理する人の手指
潜伏期間:1時間~6時間
症状:腹痛、吐き気、嘔吐、下痢
黄色ブドウ球菌は、人の手指、鼻やのど、皮膚などに存在しており、健康な体であれば菌自体が問題になることはありません。ですが、食べ物の中で増殖するときにエンテロトキシンという毒素をつくり、その毒素が食中毒の症状を引き起こします。人の手指に存在しているので、手で直接調理するにぎりめしや寿司、サンドイッチ、お菓子などで感染することが多いです。また、手に傷があったり荒れていると、通常よりも黄色ブドウ球菌が多く存在している可能性が高いため、そのような状態のときは素手で食品や調理器具に触らないようにしましょう。黄色ブドウ球菌自体は熱に弱いですが、毒素は加熱しても無毒化されません。また、真空状態でも増殖します。低温(10度以下)で増殖を抑えられるので、食材や料理は冷蔵庫などで保管し、早めに食べるようにしましょう。症状は他の食中毒と比べ、高い熱が出ないのが特徴です。
夏の食中毒で代表的な菌をご紹介しました。基本的に菌は熱に弱いものが多いのですが、ウェルシュ菌やセレウス菌といった加熱しても死滅しない菌もいます。また、リステリア菌は冷蔵庫などの低温環境でも増殖します。
夏の食中毒を予防する
食中毒になってしまうと数日間苦しむこととなり、辛い思いをしますので、そうならないように予防するのが重要です。食中毒予防は「付けない」「増やさない」「やっつける(殺菌する)」の3つが食中毒予防3原則と言われています。それぞれ具体的な対応をご紹介します。
付けない
菌を「付けない」行動は以下のようなものがあります。
- 調理前は手をしっかり洗う
- 肉や魚はビニール袋などに入れて、他の食材に菌が移らないようにする
- 肉や魚を切った後のまな板や包丁で野菜、果物など生で食べるものを切らない。
- 肉や魚を切る際、必要以上に切らないようにする(内部に菌が入ってしまうため)
- 肉や魚を触ったら手を洗う
- 使用したまな板や食器類は洗剤を使って洗う
感染源となる食品から他のものに菌が付かないようにすること、触った手や調理器具はそのままにせず洗うというのが重要です。食材を切る際に野菜や果物などを先に切ってから、肉や魚を切るようにすると食中毒のリスクを減らせます。また、使用する調理器具を肉や魚専用とそれ以外といった形で分けるとなお安全です。
増やさない
菌を「増やさない」行動は以下のようなものがあります。
- 買ってきた冷蔵や冷凍が必要な食品は速やかに冷蔵庫、冷凍庫に入れる
- 冷蔵庫、冷凍庫の詰めすぎに気を付ける
- 冷蔵庫、冷凍庫は菌の増殖を抑えられるだけで、死滅できるわけではないので、長期間の保存は避けて早めに消費するよう心がける
- 食べきれない料理は早めに冷蔵庫へ
- 飲食店のテイクアウト、デリバリーは早めに食べる
菌類は低温環境で増殖を抑えられるものが多いので、使うとき以外は冷蔵庫に入れるのが大事です。ただ、低温環境は殺菌できるわけではないので、長いこと保管するのは避けて、早めに消費するようにしましょう。また、冷蔵庫、冷凍庫は詰めすぎると冷却機能が弱くなります。詰めるとしても7割程度に抑えると良いです。温度計を使うとより正確に管理ができます。
近年の新型コロナの影響で、テイクアウトやデリバリーを実施している飲食店が増えました。すぐに食べるのを前提として提供している飲食店も多く、室温に数時間や半日など長い時間食べずに置いておくと菌が増殖してしまうこともあります。飲食店から買った料理は、早めに食べるのが安全です。
やっつける(殺菌する)
菌を「やっつける(殺菌する)」行動は以下のようなものがあります。
- 食品の中心部まで十分な加熱をする
- 調理器具は塩素系漂白剤が効果的、洗った後に熱湯をかけるのも有効
食中毒の元となる菌の多くは熱に弱い性質があります。加熱の目安は75度以上で1分以上。加熱で特に気を付けたいのは、厚みのある食材を焼くときです。表面はすぐに高温になりますが、中心部まで熱が届くのには時間がかかります。半分に切るなどして内部の焼き上がりも確認しましょう。また、お刺身やレバ刺しなどの生で食べるものは、暑い時期は避けた方が安全です。
熱以外にも塩素系漂白剤(次亜塩素酸ナトリウム)やアルコールでも殺菌可能です。こちらは食品には使えないので、調理器具に使いましょう。漂白剤がない場合は、洗剤で洗った後の調理器具に熱湯をかけることでも殺菌できます。
食中毒の対処法
食中毒になってしまった場合は、安静にして様子を見ます。もし、水分の補給が自力でできない場合や意識がもうろとしている場合、激しい下痢や嘔吐、血便がでるなどの場合は、病院を受診してください。また、ご年配の方や小さなお子さんは重症化しやすいので、少しでもおかしいと感じたら早めの受診をお勧めします。
下痢や嘔吐の症状がある場合は、脱水症になってしまうこともあるので、こまめに水分を接種するようにしましょう。また、下痢や嘔吐は毒を体外に出そうとしている反応ですので、下痢止めなどを自己判断で使わないようにしてください。食事は落ち着いてきたら、消化の良い物を少しずつ食べるようにしましょう。症状が治まらない場合は病院を受診してください。
▼脱水症関連記事
脱水症を予防しよう
夏の食中毒についてお伝えしてきました。日本の夏は湿度も高く、細菌が繁殖しやすい環境となります。食中毒予防の3原則である「付けない」「増やさない」「やっつける(殺菌する)」を実践して、食中毒にならないように予防しましょう。もし食中毒になってしまった場合は、症状が酷くない場合は安静にして様子を見、症状が改善されない場合や意識がもうろうとするなど重症であれば、病院を受診するようにしてください。
関連リンク
食中毒(厚生労働省)
これだけは知っておこう!食中毒情報 『防ごう!家庭での食中毒』(大田区)
食品衛生の窓(東京都福祉保健局)
夏の食中毒、3つの決まりで防ごう!(内閣府食品安全委員会)
家庭でできる食中毒予防の6つのポイント(厚生労働省YouTubeチャンネル)