しながわ在宅クリニック

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睡眠薬(睡眠導入薬)について

投稿日:2023年3月14日

なかなか寝付けない、早朝に目が覚めてしまうなど、睡眠障害に使われる睡眠薬。脳の活動を休ませたり、眠気を強くしたり、様々な効き方で睡眠の問題を改善します。この記事では、睡眠薬の仕組みや効果、日本で承認されている代表的な薬剤、副作用、服用の注意などについてお伝えします。

睡眠薬の仕組み・効果

睡眠薬は、脳の活動を休ませたり、眠気を強くしたりして、眠れないといった睡眠の問題(不眠)を改善する薬です。脳の活動を休ませるのは主に「GABA(ギャバ)」という神経伝達物質の作用を強めることで実現します。眠気を強くするのは、眠りに関わるメラトニンというホルモンを増やしたり、オレキシンという覚醒状態に働く神経伝達物質を抑えたりすることで実現します。

睡眠薬は睡眠導入剤、眠剤などとも呼ばれます。不眠に効く薬は薬局やドラッグストアでも販売しているものがあります。これら一般用医薬品は睡眠薬とは区別され、睡眠改善薬という分類になっています。

睡眠薬の分類

睡眠薬は作用の仕方(成分)と作用時間の2種類の分け方があります。

作用の仕方による分類

睡眠薬は作用の仕方として、主に下記の5種類に分類されます。下のものほど新しいです。

  • バルビツール酸系
  • ベンゾジアゼピン系
  • 非ベンゾジアゼピン系
  • メラトニン受容体作動薬
  • オレキシン受容体拮抗薬

バルビツール酸系

睡眠薬の歴史の中で最初に登場したのがバルビツール酸系です。脳の活動を休ませるタイプの睡眠薬で、効果は非常に強力。反面、用法を少し間違えると呼吸麻痺などの重篤な症状を引き起こす可能性がある点、依存や耐性を生じやすい点、中断した際にせん妄などの退薬症候を生じる点などから、現在は積極的に処方されることは無くなっています。

ベンゾジアゼピン系

脳をリラックスさせる「GABA(ギャバ)」という神経伝達物質の作用を強めて、脳の活動を休ませます。1930年代に不安を緩和する薬として登場し、後に睡眠薬として使用されるようになりました。バルビツール酸系と比べ、安全で即効性があることからよく使われます。ふらつきや睡眠効果が翌朝へ持ち越されるなどの副作用、依存性があるといったデメリットがあります。また、弱い抗コリン作用によって眼圧が上昇するおそれがあるため、一部の薬を除き、閉塞隅角緑内障の患者さんには使えません。

非ベンゾジアゼピン系

非ベンゾジアゼピン系もベンゾジアゼピン系と同様に「GABA」に作用して、脳の活動を休ませる薬です。ベンゾジアゼピン系よりも作用する範囲を限定することで、ふらつきや翌朝への持ち越しといった副作用が少なく、依存性も少なくなっています。その代わり、効果はややマイルドで強い不眠症状がある方には、効果が見られないことがあります。また、薬の種類が少なく、どれも効果時間が短いため、選択の幅は狭いです。

メラトニン受容体作動薬

メラトニン受容体作動薬はメラトニンの分泌を促す薬です。メラトニンはホルモンの1つで、「睡眠ホルモン」「眠りのホルモン」と言われることもあります。このメラトニンを増やすことで、体を自然と眠りの状態に持っていきます。自然な眠りに期待ができ、依存性が極めて少ない反面、眠りへの強制力は弱いです。また、眠気が日中に残ってしまう副作用が出やすい傾向があります。

オレキシン受容体拮抗薬

オレキシン受容体拮抗薬はオレキシンという物質の働きを抑える薬です。オレキシンは、人間が覚醒状態にあるときに働く神経伝達物質で、この働きを抑えることで覚醒状態から睡眠状態へと移行させます。自然な眠りに近いものが得られる、依存性が極めて少ないなど、特徴はメラトニン受容体作動薬と近いです。また、レム睡眠を増やすため、夢を見る頻度が増え、悪夢を見てしまうという方もいらっしゃいます。

作用時間による分類

睡眠薬は作用時間で分けると次の4種類に分類されます。薬を服用してから、血中濃度が最大の半分になる時間(半減期)で分けられます。

  • 超短時間型
  • 短時間型
  • 中間型
  • 長時間型

超短時間型

効力が最大になるのは服用してから1時間未満で、作用時間は2~4時間。効果がすぐに表れ、短時間で抜けるため、入眠困難の患者さんに処方されます。作用時間も短いので、翌朝に効果を持ち越す心配も少ないです。

短時間型

効力が最大になるのは服用してから1~3時間で、作用時間は6~10時間。超短時間型ほどではないですが、効果がすぐに表れるので短時間型も入眠困難の患者さんに処方されます。また、作用時間はやや長いため、中途覚醒にも効果が期待できます。

中間型

効力が最大になるのは服用してから1~3時間で、作用時間は20~24時間。作用時間が長いため、中途覚醒、早朝覚醒の患者さんに処方されます。また眠っても寝た気がしないといった熟眠障害にも効果が期待できます。

長時間型

効力が最大になるのは服用してから3~5時間で、作用時間は24時間~。効果時間が非常に長いことから、早朝覚醒や熟眠障害の患者さんに処方されます。ただ、効果時間の長さゆえに朝起きられない、日中に眠気を持ち越してしまうといった副作用に注意が必要です。

睡眠薬の紹介

睡眠薬は様々な種類が開発、販売されています。ここでは、よく処方される薬を中心に、新しく承認された順番でご紹介します。

レンボレキサント

オレキシン受容体拮抗薬に分類。2020年に承認され、デエビゴの商品名で販売されています。中途覚醒や早朝覚醒、熟眠障害に有効で、入眠障害にも効果が期待できます。ただし、ベンゾジアゼピン系のような強引さはないので、人によっては入眠障害への効果が不十分ということもあります。代謝の仕組みの関係で、他の薬との飲み合わせが比較的良いです。肝臓や腎臓機能の影響を受けやすいため、肝腎機能低下がある方は慎重投与となっています。

デエビゴ(くすりのしおり)

スボレキサント

オレキシン受容体拮抗薬に分類。2014年に承認され、ベルソムラの商品名で販売されています。中途覚醒や早朝覚醒、熟眠障害に有効で、レンボレキサントよりは弱いですが、入眠障害にも効果が期待できます。依存性が少ないことから、向精神薬に指定されてなく、処方日数の制限がありません。

スボレキサント(おくすり110番)

エスゾピクロン

非ベンゾジアゼピン系、超短時間型に分類。2012年に承認され、ルネスタの商品名で販売されています。服用後1時間で血中濃度最大になり、5時間で半分になるため、入眠障害によく使われます。薬が抜けるのも早いことから、翌朝に眠気を持ち越すことも少ないです。副作用に苦みという独特なものがあります。

エスゾピクロン(おくすり110番)

ラメルテオン

メラトニン受容体作動薬に分類。2010年に承認され、ロゼレムの商品名で販売されています。成人で適用となっている唯一のメラトニン受容体作動薬です。中途覚醒や早朝覚醒、熟眠障害に有効で、睡眠のリズムを整える作用も期待できます。効果を実感するのに時間がかかることが多く、2~4週間服用を続けて睡眠が改善するというケースもあります。

ラメルテオン(おくすり110番)

ゾルピデム

非ベンゾジアゼピン系、超短時間型に分類。2000年に承認され、マイスリーの商品名で販売されています。作用時間が短いため、翌朝へ眠気を持ち込むことが少なく、入眠障害に有効です。統合失調症や双極性障害に対して、原疾患の治療が最優先という考えから、ゾルピデムは使えないこととなっています。

ゾルピデム酒石酸塩(おくすり110番)

クアゼパム

ベンゾジアゼピン系、長時間型に分類。1999年に承認され、ドラールの商品名で販売されています。作用時間が長く、入眠障害から早朝覚醒まで幅広い睡眠障害に有効。逆に翌日に眠気を持ち越してしまう可能性も高い点に注意が必要です。また、空腹時に服用することでちょうどよく効果が出るように作られており、食後に服用すると吸収され過ぎてしまうので、気をつけてください。

クアゼパム(おくすり110番)

ロルメタゼパム

ベンゾジアゼピン系、短時間型に分類。1990年に承認され、エバミール、ロラメットの商品名で販売されています。短時間型の中では作用時間が長く、入眠障害から早朝覚醒まで効果が期待できます。肝臓への負担が少なく、他の薬との飲み合わせの制限が少ないのがメリット。反面、効き方はややマイルドとなります。

ロルメタゼパム(おくすり110番)

リルマザホン

ベンゾジアゼピン系、短時間型に分類。1989年に承認され、リスミーの商品名で販売されています。4つの活性代謝産物を合わせたもので、プロドラックと呼ばれます。効き方は穏やかで、人によっては自然な眠気に近いと感じるようです。効き方が穏やかなため、副作用も比較的マイルド。

塩酸リルマザホン(おくすり110番)

ブロチゾラム

ベンゾジアゼピン系、短時間型に分類。1988年に承認され、レンドルミンの商品名で販売されています。作用時間、効果のバランスが良く、入眠障害から早朝覚醒まで幅広い睡眠障害に処方されます。良くも悪くも標準的で、副作用も眠気の持ち越し、依存性等に注意が必要と標準的です。

ブロチゾラム(おくすり110番)

フルニトラゼパム

ベンゾジアゼピン系、短時間型に分類。1984年に承認され、サイレースの商品名で販売されています。効果が強力で、睡眠障害の切り札としている医師もいます。その強さから、アメリカやカナダなど、国によっては所持を禁止している国があります。効果が強い分、副作用も出やすく、眠気の持ち越しやふらつきなどに注意が必要です。

フルニトラゼパム(おくすり110番)

エチゾラム

ベンゾジアゼピン系、短時間型に分類。1983年に承認され、デパスの商品名で販売されています。抗不安薬でもあり、抗不安作用、筋弛緩作用、催眠作用と複数の効果がある薬です。そのことから、不安や緊張が強くて寝付けない、中途覚醒や早朝覚醒があるという方に処方されます。副作用としては、筋弛緩作用により、睡眠時無呼吸症が悪化する可能性がある点に注意が必要です。

エチゾラム(おくすり110番)

トリアゾラム

ベンゾジアゼピン系、超短時間型に分類。1982年に承認され、ハルシオンの商品名で販売されています。効果が表れるのが早く、入眠作用も強いことから入眠障害に有効な薬です。作用時間が短いため、翌朝に眠気を持ち込むことが少ない反面、中途覚醒や早朝覚醒には効果が乏しいことがあります。また、依存性が高い点にも注意が必要です。

トリアゾラム(おくすり110番)

エスタゾラム

ベンゾジアゼピン系、中間型に分類。1975年に承認され、ユーロジンの商品名で販売されています。作用時間は長めで、入眠障害から早朝覚醒まで効果が期待できます。作用時間の長さから、翌朝へ眠気を持ち込んでしまう可能性が高い点に注意が必要です。ベンゾジアゼピン系の中では珍しく、緑内障の患者さんにも使用可能。

エスタゾラム(おくすり110番)

ニトラゼパム

ベンゾジアゼピン系、中間型に分類。1967年に承認され、ベンザリン、ネルボンの商品名で販売されています。作用時間が長く、中途覚醒や早朝覚醒に有効です。また、効果が表れるのも早いので、入眠障害にも効果が期待できます。抗てんかん薬としての適応が認められており、90日まで処方することが可能です。

ニトラゼパム(おくすり110番)

フェノバルビタール

バルビツール酸系、長時間型に分類。1944年に承認され、フェノバールの商品名で販売されています。発売当初はバルビツール酸系しかなかったため、よく使われましたが、薬が効かなくなってしまう耐性や依存性の高さ、治療域と毒性域の近さから、現在処方されることは少ないです。より安全なベンゾジアゼピン系に置き換えられました。

フェノバルビタール(おくすり110番)

睡眠薬の剤形

睡眠薬は基本的には錠剤が多く、ブロチゾラムなど薬剤によっては口腔内崩壊錠(OD錠)もあります。また、散財やカプセル、注射剤もごく一部の薬剤では存在しています。睡眠薬の大半は錠剤ですので、錠剤の服用が苦手など特別な理由がない限りは錠剤での処方となるでしょう。

睡眠薬の副作用

睡眠薬の代表的な副作用は以下のようなものがあります。

  • 日中の眠気(持ち越し効果)
  • ふらつき
  • 健忘
  • 反跳性不眠(離脱症状)

日中の眠気は朝になっても睡眠薬の効果が残ってしまい、朝起きれない、日中にぼーっとしてしまうといったことがあります。

ふらつきは筋弛緩作用がある睡眠薬によって、力が上手く入らずふらついてしまいます。ふらつきによって、転倒してしまうなどの危険があり、特に高齢の方は注意が必要です。筋弛緩作用はベンゾジアゼピン系の睡眠薬で多く見られます。

健忘は睡眠薬を服用したあとに、記憶がなくなってしまうことを指します。記憶がないといっても基本的には正常な行動をしているのでそこは心配いりません。とはいえ、記憶がないというのは気になると思いますので、寝る直前に睡眠薬を服用すると良いでしょう。

反跳性不眠というのは、睡眠薬を長期間服用し体が慣れてしまい、薬を減らすと不眠が強まってしまうことです。睡眠薬の量は変わらないものの、やめることができなくなってしまいます。

睡眠薬ごとに表れやすい副作用が異なりますが、大まかな目安として作用時間の長さがあります。作用時間が長いと「日中の眠気」「ふらつき」が、作用時間が短いと「健忘」「反跳性不眠」が出やすいです。

睡眠薬の服用について、注意点

睡眠薬は強さ、作用時間が多岐にわたります。患者さん1人1人に合わせて処方をしますので、主治医の指示にしたがって服用するようにしましょう。主治医から許可を得てない場合、自己判断で飲む量を増減させたり、服用を中止したりしないようにしてください。服用していて副作用や効き目について気になる点があれば、主治医に相談すると薬を調整してくれると思います。

睡眠薬は併用に注意が必要な薬もあります。診察時に服用している薬を主治医に伝えるようにしましょう。副作用が強く表れるなどの問題があるので、アルコールと一緒に服用するのは避けてください。

睡眠薬以外の催眠効果のある薬

抗精神病薬、抗うつ薬の中には作用の仕方から催眠効果がある薬があります。副作用として眠気が出るというのが多いのですが、それを睡眠障害の改善に利用します。

抗精神病薬はドーパミンの働きを抑えることで鎮静作用が生じ、眠気が強くなります。具体的な薬としては、リスペリドン(リスパダール)やオランザピン(ジプレキサ)など。

抗うつ薬はセロトニンの働きを抑えることで睡眠を深くします。また、抗ヒスタミン作用があるものは催眠作用も強いです。抗ヒスタミンは花粉症などのアレルギー薬にもなっていますね。具体的な薬としては、ミルタザピン(リフレックス、レメロン)、アミトリプチリン(トリプタノール)など。

不眠の症状によっては、睡眠薬よりもこれらの抗精神病薬や抗うつ薬の方が適していることもあります。

睡眠薬についてお伝えしました。睡眠薬全般に言えることを中心に説明しましたので、薬剤ごとの細かい説明は割愛しています。実際に睡眠薬の処方を受けている方は、主治医や薬剤師の説明をよく聞き、用法用量を守るようにしましょう。副作用など、気になる点がある時は主治医に相談してみてください。睡眠薬では睡眠障害の根本的な解決にならないケースもあります。睡眠薬に頼りつつ、睡眠習慣を見直して改善を図るようにしましょう。

関連ブログ記事

精神科でよく使われる薬
抗精神病薬について
抗うつ薬について
気分安定薬について
抗不安薬(精神安定剤)について

関連リンク

睡眠薬(e-ヘルスネット(厚生労働省))
催眠・鎮静薬(日経メディカル処方薬事典)
不眠症(国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所睡眠・覚醒障害研究部)
不眠症と日中の過度の眠気(MSDマニュアル家庭版)

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