過度な不安によって日常生活に支障が出る、不安からパニック障害になってしまうなどの問題を解決するために使われるのが抗不安薬です。日本ではベンゾジアゼピン系がよく処方されます。この記事では、抗不安薬の仕組みや効果、日本で承認されている代表的な薬剤、副作用、服用の注意などについてお伝えします。
抗不安薬の仕組み・効果
抗不安薬は名前の通り、不安や緊張を和らげる効果がある薬です。精神安定剤、マイナートランキライザーとも呼ばれます。その効果から不安症やうつ病、ストレス障害、パニック障害など、幅広い疾患が対象です。
様々な種類が発売されていますが、日本で処方されるのはベンゾジアゼピン系抗不安薬が大半を占めています。稀にアザピロン系抗不安薬を処方することもあります。
ベンゾジアゼピン系抗不安薬
脳をリラックスさせる神経伝達物質である「GABA(ギャバ)」の作用を強めて抗不安効果を得る薬です。1930年代に誕生し、より安全で効果があるものへと開発が続けられ、現在も抗不安薬の主流となっています。即効性があり、効果を実感しやすいメリットがある反面、長期間や多量の使用を継続すると耐性や依存性が生じる問題があります。
睡眠薬にもベンゾジアゼピン系があり、作用するGABAの受容体によって催眠作用が強いものを睡眠薬、抗不安作用が強いものを抗不安薬としています。
アザピロン系抗不安薬
セロトニンの働きを調整することで抗不安効果を得る薬です。その動きから、セロトニン1A部分作動薬とも呼ばれます。ベンゾジアゼピン系抗不安薬と異なり、耐性や依存性が生じることがほとんどなく、安全性が高い代わりに即効性はなく、効き目は穏やかです。セロトニンに作用することから、抗うつ効果にも期待ができます。
抗不安薬の分類
抗不安薬は作用時間と効果の強さで分類することが多いです。作用時間は短時間型(3~6時間)、中間型(12~20時間)、長時間型(20~100時間)、超長時間型(100時間~)の4種類。処方の例としては、一時的に強い不安がある場合は短時間型を頓服として、常に不安を感じる場合は中間型や長時間型などの効果が長い薬を常用といった具合です。不安の感じ方から作用時間を決め、不安の強さによって、効果の強さを調整して処方します。
抗不安薬の紹介
抗不安薬は様々な種類が開発、販売されています。ここでは、よく処方される薬を中心に、新しく承認された順番でご紹介します。
タンドスピロン(セディール)
アザピロン系、短時間型に分類され、抗不安作用は中くらい。1996年に承認され、セディールの商品名で販売されています。比較的副作用が少なく、高齢の患者さんにも処方しやすい薬です。ただし、効果を感じられるまで1~2週間ほど継続して服用する必要があります。そのため、即効性のあるベンゾジアゼピン系と組み合わせて使用することもあります。
ロフラゼプ酸エチル(メイラックス)
ベンゾジアゼピン系、超長時間型に分類され、抗不安作用は中くらい。1989年に承認され、メイラックスの商品名で販売されています。服用から1時間程度で薬が体内に吸収され、その後ゆっくりと分解されていき、4~5日ほど作用が続くとされています。そのため、依存性や離脱症状が発現しにくいです。また、他のベンゾジアゼピン系と比較して、眠気やふらつきが起きにくい特徴もあります。
フルトプラゼパム(レスタス)
ベンゾジアゼピン系、超長時間型に分類され、抗不安作用は強め。1986年に承認され、レスタスの商品名で販売されています。服用から6時間程度で薬が体内に吸収され、その後ゆっくりと分解されていき、1週間ほど作用が続くとされています。同じ超長時間型のロフラゼプ酸エチル(メイラックス)よりも抗不安作用は強めである反面、眠気やふらつきといった副作用が出やすい傾向があります。原薬製造先が行政処分を受けた関係で、2022年7月から販売中止となっています。
エチゾラム(デパス)
ベンゾジアゼピン系、短時間型に分類され、抗不安作用は強め。1984年に承認され、デパスの商品名で販売されています。睡眠作用も強いため、睡眠障害の患者さんにも処方されます。筋弛緩作用もあり、肩こりや体のこわばりなど、筋肉の緊張の緩和にも効果が期待できます。反面、ふらつきに注意が必要です。ふらつき以外の副作用としては、眠気や依存性の副作用がよくあります。
アルプラゾラム(ソラナックス、コンスタン)
ベンゾジアゼピン系、中間型に分類され、抗不安作用は中くらい。1984年に承認され、ソラナックス、コンスタンの商品名で販売されています。抗不安作用が強い薬ほどではないですが、しっかりと抗不安作用がありながら、副作用は出にくい薬です。とはいえ、副作用がないわけではなく、眠気や依存性に注意が必要です。
メキサゾラム(メレックス)
ベンゾジアゼピン系、長時間型に分類され、抗不安作用は中くらい。1984年に承認され、メレックスの商品名で販売されています。睡眠作用や筋弛緩作用など、全体的に中くらいの効力の薬です。副作用は眠気やふらつきに注意が必要。作用時間が長いため、依存性は比較的やや低めです。
フルジアゼパム(エリスパン)
ベンゾジアゼピン系、長時間型に分類され、抗不安作用は中くらい。1981年に承認され、エリスパンの商品名で販売されています。ストレスなどの精神的な原因で起こる消化器疾患や高血圧、心臓神経症などに効果を発揮します。副作用としては眠気やふらつきに注意が必要です。
ロラゼパム(ワイパックス)
ベンゾジアゼピン系、中間型に分類され、抗不安作用は強め。1978年に承認され、ワイパックスの商品名で販売されています。即効性に期待ができ、抗不安作用も強いため、効果を感じやすい薬です。その分、依存性に注意が必要です。その他の副作用としては、眠気やふらつきが報告されていますが、他の抗不安薬と比べると出にくい傾向があります。
クロチアゼパム(リーゼ)
ベンゾジアゼピン系、短時間型に分類され、抗不安作用は弱め。1978年に承認され、リーゼの商品名で販売されています。即効性はあるものの、効果がマイルドなため、強い不安感には効果が感じられないかもしれません。効果がマイルドなので、副作用も比較的少なく、優しい薬とも言えます。
ブロマゼパム(レキソタン)
ベンゾジアゼピン系、中間型に分類され、抗不安作用は強め。1977年に承認され、レキソタンの商品名で販売されています。抗不安作用、鎮静作用、筋弛緩作用と全体的に他の抗不安薬と比べて強めの薬です。その分、眠気やふらつき、依存性などの副作用にも注意が必要となります。強い筋弛緩作用から、整形外科で肩こりや腰痛に処方されることもあります。
クロキサゾラム(セパゾン)
ベンゾジアゼピン系、長時間型に分類され、抗不安作用は強め。1974年に承認され、セパゾンの商品名で販売されています。鎮静作用や筋弛緩作用は中くらいなため、常に強い不安感がある患者さんに適しています。眠気やふらつきなどの副作用も比較的起きにくいですが、効果時間が長いので副作用が出た際は薬が抜けるまで注意が必要です。
メダゼパム(レスミット)
ベンゾジアゼピン系、長時間型に分類され、抗不安作用は中くらい。1971年に承認され、レスミットの商品名で販売されています。比較的穏やかな効き目の薬です。筋弛緩作用も弱いため、ふらつきなどの副作用が出にくい特徴があります。軽度の不安が1日中続くような患者さんに向いています。
オキサゾラム(セレナール)
ベンゾジアゼピン系、長時間型に分類され、抗不安作用は中くらい。1970年に承認され、セレナールの商品名で販売されています。強さや傾向はメダゼパム(レスミット)に近い穏やかな薬です。麻酔前の緊張や不安を取り除くのに使われることもあります。
ジアゼパム(ホリゾン、セルシン)
ベンゾジアゼピン系、長時間型に分類され、抗不安作用は中くらい。1965年に承認され、ホリゾン、セルシンの商品名で販売されています。鎮静作用や筋弛緩作用など、抗不安薬で得られる作用をバランスよく持っているため、神経症から腰痛や肩こりまで、幅広い病気に使われます。その分、眠気やふらつきなどの副作用に注意が必要です。作用時間は24時間以上と長いですが、服用から体内の薬の濃度が最大になるまで1時間と短く、即効性にも期待ができます。
クロルジアゼポキシド(コントール、バランス)
ベンゾジアゼピン系、長時間型に分類され、抗不安作用は中くらい。1961年に承認され、コントール、バランスの商品名で販売されています。ベンゾジアゼピン系の薬で最初に開発された薬です。鎮静作用、催眠作用が強めという特徴があります。そのため、眠気の副作用に注意が必要です。
抗不安薬の剤形
抗不安薬は基本的には錠剤が多いです。一部の薬剤では、散財やカプセル、シロップ、注射剤、坐剤などが存在しています。抗不安薬の大半は錠剤ですので、錠剤の服用が苦手など特別な理由がない限りは錠剤での処方となるでしょう。
抗不安薬の副作用
抗不安薬の代表的な副作用は以下のようなものがあります。
- 眠気
- ふらつき
- 離脱症状(依存性)
眠気は睡眠作用がある抗不安薬で起こる副作用です。作用時間が長い抗不安薬の場合、日中もずっと眠気があり生活に支障が出てしまうこともあります。また、不安や緊張が強い時には眠気を感じなくても、薬が効いてきて不安が和らぐと眠気が強く出ることもあるので注意が必要です。
ふらつきは筋弛緩作用がある抗不安薬で起こる副作用です。筋肉の緊張を緩める作用が効き過ぎることで、脱力感やふらつきに繋がってしまいます。特に足腰が弱っている高齢者の方には注意が必要で、ふらつきから転倒し、思わぬ事故になることもあります。
離脱症状(依存性)は、長期間服用を続けていると起きる副作用です。薬をやめた際に体内のバランスが崩れ不調が出てしまったり、症状は改善しているのに薬をやめることができなくなったりします。また、耐性が生じてしまい、薬の効果が薄れ、薬の量が増えていってしまうこともあります。離脱症状は作用が強く、作用時間が短いものほど生じやすいです。
抗不安薬の服用について、注意点
抗不安薬はさまざまな種類があり、医師が患者さんに合わせて処方するので、主治医の指示に従って服用するようにしましょう。自己判断で飲む量を増減させたり、服用を中止したりしないようにしてください。もし、副作用や効き目について気になる点があれば、主治医に相談すると処方を調整してくれると思います。
抗不安薬は併用に注意が必要な薬もあるので、診察時に現在服用している薬を主治医に伝えるようにしましょう。副作用が強く表れる、呼吸中枢に影響が出るなど命に関わることもあるので、アルコールと一緒に服用するのは避けてください。
抗不安薬についてお伝えしました。薬剤については特徴や他の薬剤との違いを中心に説明をしましたので、薬剤ごとの細かい説明は割愛しています。実際に抗不安薬の処方を受ける場合は、主治医や薬剤師の説明をよく聞き、用法用量を守るようにしましょう。処方されている薬で副作用や効果など、気になる点がある時は主治医に相談してみてください。抗不安薬は不安の大元を消してくれるわけではありません。抗不安薬を使いつつ、場合によっては生活習慣の見直しなどもし、不安を感じない自信を付けていくようにしましょう。
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関連リンク
精神安定剤 / 抗不安薬(e-ヘルスネット(厚生労働省))
抗不安薬(日経メディカル処方薬事典)
不安障害(厚生労働省)
抗不安薬と鎮静薬(MSDマニュアル家庭版)